予兆

ヨシさんは、還暦を迎えました。誕生日が7月でした。私達は、イベントに興味がありませんでした。

世間が、クリスマスだの、バレンタインだの、騒いでいても、特に何かするわけでもなく普通の日常を過ごしていました。誕生日も、おめでとうと言う位で、済ましていました。

ただ、還暦の誕生日だけは、違いました。と言っても、私は、仕事で日曜日のみ休んでました。
なので、誕生日に近い日曜日に生まれて始めて
のり巻きなるものを作りました。

私なりに誕生日を祝いたかったのです。
ヨシさんは、若い時、自転車で長距離を走るのが
好きでした。東北地方を走ったりしていました。

還暦に自転車で川崎大師まで走りたいと言うのです。朝の4時に起きて行ったのです。

途中、体力的に無理と感じたら引き返すと約束して何とか無事に帰ってきました。
本人も、まだまだ体力があると感じて嬉しそうでした。

ヨシさんが、よく言っていたのは「還暦まで生きられるとは、思わなかった。」でした。
私もこの頃は、以前の「この人は、長くない」と言う感覚がよみがえってくるのです。

でも、何となく、還暦まで来たらもう大丈夫と思っていました。
私の父の死。ヨシさんの姉の死があり、私達は、死について話し合っていました。

「本当の世界は、この世ではなくあの世だと思うよ。この世は、蜃気楼のようなものだから。
あの世にどれだけ土産話を持っていけるか? それが大切だと思う。

俺は、病院では死なない。病院にかかる気が無いから。葬式も不要だと思っている。もし、俺が死んでも、誰にも知らせるな。
お前だけが見送ってくれたら良い。

全部終わってから、知らせてくれ。墓も、いらない
散骨か、樹木葬で良い。
檀家制度が嫌なんだ。自分らしく生きてきたから
自分らしく死にたい。

もし、俺が死んだら、お前は、いつまでも悲しんでいないで、再婚なりすれば良い。

大切なのは、死んでいく時、この世に未練を持たない事。そうすれば、もっと別の次元に行けると思う。死ぬ時は、何の未練なく身軽に行きたい。

お前、俺の足を引っ張るなよ。」

時々、そう言う事を言うのです。
私は、どう答えて良いか解らず、ただ頷くだけでした。
続きは次回にします。
本日も、有り難うございました😄