「あんたも、そちら側か。」パート4

Yさんの皮膚の異変に気付いたのは、Tという職員でした。
Tさんは、Yさんの対応に悩んでいました。怒りが出てくると云うのです。

それでも、小さな水泡に気付いたのです。私は、その観察力は見事だと思いました。

Yさんは、職員の悩みの種になっていました。
家族の理解があり、他の施設を申し込んでいました。一件は、断られ、もう一件は、受け入れの話が進んでいました。

こんな状況の時に、見つかったのです。
問題は、往診です。彼女は、触られるのが何より嫌いでした。
入浴介助、トイレ介助、いずれも大変だったのです。

特に異性に対する拒否は、強かったのです。
ドクターは、男性です。

当日、私は、勤務でした。Tさんも勤務でした。
私と、TさんでYさんが暴れない様に押さえ込みました。

私が、Yさんの腕を掴みました。私は、いつも彼女の目を見ます。目線を外すと彼女の感情の動きが解らず危険だからです。

彼女は、驚いた表情で私を見ました。その時です。「あんたも、あんたもか。」他の人には
聞き取れない声で私に言ったのです。

私は、申し訳ないけど、彼女の目を見ながら「大丈夫。怖くないから」それだけ言いました。
私は、彼女がまだ言葉を使って意思表示出来る事にビックリしました。

Yさんは、どうにか皮膚を診せてくれました。
結局、難病の皮膚炎ではあるけど、人にはうつらない。薬で治せる程度と判明しました。

次に決まっている施設の人が面接に来ました。
Yさんは、借りてきたネコの様に車椅子に
座ったままニコニコしていました。

私達は、安堵しました。コロナで少し伸びましたが、次の施設が決まりました。
彼女は、理解しているかの様に一週間位穏やかに過ごしました。

異動する当日、淡々と仕事をしていました。
私は、 そちら側の人の様に、当たり障りの無いセリフで見送りました。

彼女は、一言「寂しい。」と言いました。これは、私に向けられた言葉ではなく、ホームに対する感情だったと思います。

私は、早く新しくホームで慣れる事を祈りながら心の中で「楽しかったね。有り難う。」と呟きました。